離婚する際には、離婚協議書(協議離婚にかかる合意書)を作成したり、調停調書や判決書(和解調書)が作成されたりします。
離婚協議書は、協議離婚の際に作成するもので、離婚する夫婦だけで作成できますが(私文書)、公証人に加わってもらって公正証書(公文書)にすることもできます。
調停調書や判決書(和解調書)はそれぞれ調停離婚や訴訟離婚(裁判離婚)の際に作成される公文書です。
離婚協議書を私文書と公正証書のどちらの形にしておくかは、協議離婚の際の約束(養育費、慰謝料、財産分与など)を守ってもらえなかった場合に大きな意味を持ってきます。
約束したことを実現させるには、相手方の財産の差押えなどを国家権力で行ってもらうことが必要になるのですが、調停調書や判決書(和解調書)があれば、もう一度調停や訴訟をすることなしに差押えなどをしてもらうことができます。ですが、離婚協議書が私文書の場合には、調停や訴訟をして調停調書や判決書をもらわなければ差押えなどをしてもらえません。これに対し、離婚協議書が公正証書の場合には、調停や訴訟をすることなしに差押えなどをしてもらうことができます(ただし、後に解説するように、公正証書に強制執行認諾文言があることが必要です。)。
では、これらの書類について詳しく解説していきます。
(1) 私文書の場合の作成方法
離婚協議書を私文書として作成する場合には、約束した事項を記載した書面に離婚する夫婦双方がそれぞれ署名押印するだけですみます。
ただ、約束した事項を正確に記載しておかないと、後々トラブルになった場合に役に立たないおそれがありますので、正確に記載することが重要です。弁護士に作成を依頼することがお勧めです。
私文書の協議離婚書の作成には特に費用はかかりませんが、離婚協議書の作成を弁護士に依頼した場合には、弁護士費用がかかります。
なお、弁護士費用については、離婚する夫婦の間で依頼時にすでに合意が成立していて、その内容を書面化することだけを弁護士に依頼する場合には、書面作成手数料として数万円ほどの費用ですむのが通常です。ですが、依頼時にまだ合意が成立しておらず、合意内容についての交渉まで依頼する場合には、協議離婚の代理費用として数十万円以上の費用がかかるのが通常です。
(2) 公正証書の場合の作成方法
離婚協議書を公正証書にする場合、公証役場に申込みをして、書面案を提出し公証人と連絡を取り合って書面の内容を決定し、離婚する夫婦が公証人の面前でその内容を確認した上で署名押印します。
公証役場への申込みや書面案の提出、公証人との連絡(公正証書の作成援助)を弁護士に依頼することは可能です。
公正証書の離婚協議書の作成には、公証人に支払う手数料が必要です。また、弁護士に公正証書の作成援助を依頼した場合には、弁護士費用がかかります。
(3) 離婚協議書の記載事項
離婚協議書には、主に以下の事項を記載します。
(4) 強制執行認諾文言
以上の記載事項に加えて、公正証書にする場合には「強制執行認諾文言」というものを記載することが重要になります。
「強制執行認諾文言」というのは、わかりやすく言えば、お金を支払うことを約束した方が「お金の支払の合意に反した場合には、差押えを受けることを認めます」と宣言する文言です。
(5) 私文書と公正証書との違い
なぜ、これが重要かというと、最初に述べましたように、お金の支払の約束を守ってもらえない場合に差押えなどをするには、私文書の場合には、調停や訴訟をして調停調書や判決書をもらわなければ差押えなどをしてもらえないのですが、強制執行認諾文言のある公正証書の場合には、調停や訴訟をすることなしに差押えをしてもらうことが可能になるからです。
「強制執行認諾文言のある」ということが重要で、これのない公正証書だと私文書と同じことになってしまいます。
なお、私文書(強制執行認諾文言のない公正証書も同じ)の場合には調停や訴訟をしなければならないと言うと、「私文書には意味がないのでは?」と思われるかもしれませんが、調停や訴訟の中で有力な証拠(お金の支払いなどを約束したことを証明する資料)として利用することができるという意味はあります。
離婚調停で離婚する合意が成立した場合には裁判所が調停調書という書類を作成してくれます。
また、離婚訴訟で裁判所が離婚の請求を認めた場合には、「原告と被告とを離婚する」という判決書を裁判所が作成してくれます。
また、離婚訴訟の手続の中で夫婦が話し合って離婚する合意をした場合には、和解調書という書類を裁判所が作成してくれます。
これらの書類には、離婚協議書と同じような内容が記載されますが、強制執行認諾文言のようなものは記載されません。これはもともと調停調書や判決書、和解調書には差押えなどができる効力が備わっているので、わざわざ記載する必要がないからです。
調停や訴訟で離婚する場合には、裁判所が書類を作成してくれますので、内容の正確性や効力はあまり気にする必要はありません。
ですが、協議離婚をする場合には、離婚協議書の内容の正確性や効力について慎重に検討する必要があります。弁護士に作成を依頼することをご検討ください。
※2024(令和6年)11月11日時点の情報です。後の法律改正等には対応しておりません。